移動平均線(MA)はもっともポピュラーなテクニカル分析の一つです。FXの参考書やブログでは真っ先に取り上げられ、さまざまな使い方が紹介されています。現在このブログを読んでいただいている方も、チャートに移動平均線を表示させているのではないでしょうか。
しかし、移動平均線はなんとなく表示させていて、間違った認識をしている人が多いことも事実です。よく「MAでの反発」「ゴールデンクロスが売買サイン」など、視覚的にわかりやすい事象について解説されることがありますが、実際はそうした使い方だけでは不十分です。移動平均線以外も含め、テクニカル分析は複合的に見ていく必要があります。
本記事では、移動平均線の使い方や正しい設定値、具体的な応用方法などをまとめました。現在「移動平均線を用いたトレードをしているが結果が出ていない」「表示させている設定値が正しいかわからない」と感じている人は、ぜひ記事を読んでみてください。
移動平均線の正しい使い方
移動平均線の正しい使い方は、以下の3つに大別できます。
- トレンドの判断
- 損益の境目
- その他(MAの反発、ゴールデン・デッドクロスなど)
それぞれ詳しくみていきましょう。
トレンドの判断
移動平均線の傾きによって、どの方向にトレンドが出ているかを確認できます。例えば以下の1時間足チャートでは、赤の短期(20MA)、青の中期(80MA)、緑の長期(480MA)、の3つが右上を向いています。
スキャルピング(短期)、デイトレード(中期)、スイングトレード(長期)、いずれの軸で見ても買いの圧力が非常に強いことがわかります。

チャートの前にいる無数のトレーダーも、同様に「買いが強いなぁ」「落ちてきたら買いたいなぁ」と思っています。
もしトレンドフォローの戦略を取るのであれば、こうした状況で売りを検討することはナンセンスです。上記の相場状況での売りのエントリーは、著しく勝率が低くなるでしょう。

しかし、一方で「一方向に伸び続ける相場はない」「移動平均線は必ず収束してくる」という絶対的な原則があります。上記のチャートでは、時間が経過し移動平均線が横向き→右下へと傾き始めました。

また、押し安値を割って戻り高値を形成した後に、再び安値を割って下降トレンドに転換したことがわかります。

短期、中期のトレーダーは売りを意識し、レートが下がる勢いが強くなり始めます。ただし、チャートには出ていませんが、長期ではまだ上昇トレンドであり、押し目買いが入る可能性があることには注意が必要です。
このように移動平均線の向きを見るだけでもトレンドを判別でき、売りと買いどちらのエントリーを検討すべきかの判断が可能です。
損益の境目

移動平均線とは、一定期間内の終値の平均値を合算して割って線でつないだものであり、損益の境目と考えることができます。
例えば、1時間足の20期間の移動平均線(20MA)の上にレートがある場合「過去20時間に買いポジションを持った人は、相対的に含み益を抱えている」と判断できます。逆に「過去20時間に売りポジションを持った人は、相対的に含み損を抱えている」ともいえます。
こうした状況で、移動平均線が右上がりで上昇トレンドを形成していれば、流れに乗り遅れまいとする初心者トレーダーが続々と買いエントリーを入れ始めます。また、含み損を抱えているトレーダーは、これ以上の損失を避けるために損切り注文を入れます。
売りポジションの損切り注文=買い注文です。つまり、買い注文によってレートが上昇することを意味し、さらなる上昇圧力が生まれます。これは「上昇トレンドにおける押し目買い」が機能するメカニズムの一部です。
今回は買いを例に出して説明しましたが、売りでも同様のことがいえます。こうしたことを理解しておくと、市場の勢いを見極めやすくなり、無駄なエントリーを減らすことにもつながります。
その他(反発、ゴールデン・デッドクロスなど)

今まで紹介してきた以外にも、移動平均線にはさまざまな活用方法があります。具体的には以下の通りです。
- 移動平均線での反発
- ゴールデン・デッドクロス
- 乖離率
これら単体でも、一定の効果を発揮することがあります。チャートを見ていると、上昇トレンドが押し目をつけてきて移動平均線付近で買いが入っていたり、ゴールデンクロスが相場の転換点として機能しているケースもあります。
しかし、相場では上位足と下位足のマルチタイムフレーム分析を通じて、複合的に判断しなければ利益を上げることはできません。単一の時間足での移動平均線の反発やゴールデン・デッドクロス、一定以上の乖離率での逆張りトレードで勝ち続けることは不可能です。
ここで挙げた3つのアクションは視覚的にわかりやすいですが、あくまで移動平均線を通じた分析の補助的な存在です。相場ではマルチタイムフレーム分析を通じて上位足のトレンドを見極め、節目と注文が動きやすい部分を確認し、逆行せずに伸びやすい局面でのエントリーを求められます。
移動平均線を用いた相場分析の一例
ここでは、移動平均線を元に実際のチャートを分析していきます。
1枚目

チャートではレンジを形成している局面で、短期、中期、長期3本の移動平均線もほぼ横向きです。見ても分かる通り方向感がなく、一方向に伸びづらいです。
そのため、トレンドに沿った流れで押し目買い・戻り売りするには向かない局面と判断できます。
2枚目

3本の移動平均線が上向きで上昇が強い局面です。短期の移動平均線付近からは何度も買いが入ってきていて、売りを検討するには向かないと判断しがちです。
しかし、こうした局面では、すでに大きな含み益を抱えている人による利益確定によってレートが急落し、高値掴みの可能性があることも理解しておかねばなりません。実際のチャートでは更新幅を減らしてダブルトップを形成し、勢いを失っているように見えます。
また、相場には大きく乖離した移動平均線は収束してくるという原則があります。現在ガンガンにあげている移動平均線が横向きになってローソク足を押さえてくるような形になれば、売りを検討できる局面になるでしょう。
3枚目

短期と中期の移動平均線が横向きで、上昇すれば売られ下落すれば買われる方向感がない局面です。1枚目と同じく、トレンドフォローの戦略には向かないと判断できます。
トレンドフォローを狙うのであれば、どちらかの方向に抜けた上で、下位足で押し目や戻りを確認して仕掛けていくといいでしょう。
4枚目

押し目安値を割って、完全に下落トレンドに突入した局面です。中期の移動平均線も横向きから右下に傾き始め、売りの圧力が強くなってきていることがわかります。
また、ローソク足が中期の移動平均線を下抜けして、初めての反発ポイントがあります。こうした局面は下への圧力がかかりやすく、売りに優位性があると判断できます。詳しくは以下の記事で解説しているので、ぜひ併せて確認してみてください。
5枚目

移動平均線がゴールデンクロスし、3本の移動平均線が上を向き始めた局面です。上昇トレンドに完全に転換し、流れに乗って上の価格を求める人が増えてきます。
下位足を確認して、押し目をつけてくればぜひ買いを狙っていきましょう。
移動平均線に関するQ&A
ここでは、移動平均線に関してよくある質問と、それに対する回答を述べていきます。
- 移動平均線はどの種類がおすすめですか?
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移動平均線には「SMA:単純移動平均線」「EMA:指数平滑移動平均線」「WMA:加重移動平均線」など複数の種類があります。それぞれ計算方法に違いはありますが、本質的にはどれを使うかよりも、移動平均線を通じてトレンドの方向性や相対的な損益の境目をどう捉えるかが重要です。
個人的には、SMAを用いた手法を採用していますが、理にかなっていればどの種類でも問題ないと考えています。
- 移動平均線はチャートに表示させるべきですか?
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移動平均線はトレンドやエントリーポイントを探す上で重要なテクニカル分析であり、多くの情報を与えてくれるため、個人的には表示させるべきと考えます。
移動平均線は古くから存在し、グランビルの法則やMACD、GMMAなど移動平均線を元に発展させたテクニカル分析も多いです。また、他の多くのトレーダーも移動平均線を意識していて、機能しやすい点も見逃せません。
以上の理由から、移動平均線を元にしたテクニカル分析を行うことをおすすめします。
- 移動平均線の正しい設定値は何ですか?
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移動平均線でワークしやすい、効きやすい値は存在しません。FXの参考書やブログでは「20」「25」「50」「75」「100」「150」「200」の値が紹介されること多いですが、実際はどの値でもそこそこワークします。
個人的には「20」の値をベースに、各時間足に複数表示させるようにしています。例えば、1時間・4時間足・日足チャートを使ってトレードする場合には「1時間足:20、80(=20×4)、480(=20×24)」「4時間足:20、120(20×6)」「日足:20」のような形です。
まとめ
移動平均線は、反発やゴールデンクロスといった視覚的にわかりやすいシグナルに注目されがちですが、トレンドの方向性を見極めたり、相対的な損益の境目を把握するための指標として活用すべきです。
この記事では具体的なチャートを用いていくつか移動平均線の分析方法を紹介しましたが、実際には無数の形が存在します。どのような状況の中でも、移動平均線が何を意味しているか、現在はどちらに優位性があるかを判断し、エントリーに繋げていくことが重要です。